「世紀の大博打 仮想通貨に賭けた怪人たち BITCOIN BILLIONAIRES」<ベン・メズリック BEN MEZRICH/文藝春秋>
文藝春秋書籍サイトより
読了。久しぶりにワクワクした本だったのだが、新聞の書評に全く出てこないのが不思議だ。完全なドキュメンタリーじゃないからだろうか。そうだとしても、現在進行形の話は十分楽しかった。
優れたマーケッターのウインクルボス兄弟(双子)がスタートアップの若き天才社長の気まぐれに戸惑う物語と言ってしまえばそれまでなんだが、マネーを解放するというビットコインの本質からどんどん離反していく若きエンジニアの苦悩とも言える。
インターネットも人類の知恵の共有という理想からリアルをなぞるバーチャルワールド、そして資本の狩り場となってしまったように、ビットコインもリアルマネーをなぞっているように思える。
そういう意味では、ウインクルボス兄弟たちのビットコインに対する興奮を伴った賭けは、インターネットで儲けそこなったリベンジプレイとも言えるのでそこはよく理解できる。彼らはこれからずっと勝ち続けなければならない。だから、今日もビットコインは力強く上昇している、と喧伝するのだ。古い製造業やサービス業の資本家たちが市場から退場していったように、今度は古い金融業や政治家たちが退場していく番なのだ。
ただ、ウインクルボス兄弟の残念な点はビットコインを古い金融街の住人たちとその投資家に認めさせようとしていることしか我々に伝わってこないことだ。兄弟の理念は何なのだ?
What is the brother's philosophy?
世界を変えるのがビットコインだと思ったのなら、金融そのものの概念を変えるために何ができるのか、ということを考えなかったのだろうか?なぜ、古い金融マーケットにプレゼンするのだ?金儲けの前にもっと根本的にすることがあるだろう、と思うのだ。そこが、実利主義者である彼らの物足りない点だ。Facebookの時もそうだが根本的に技術で世界を根底から変える、という理想がないような気がする。優秀なアイデアを秀逸なビジネスに変えるだけの単なる優秀な実務者にしか見えないのだ。壮大じゃないんだよ。ちっちゃいんだ。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)の価値の上層しか見ていないような気がする。もちろん、価値を見出しそれに投資したのは先見の明があるとは言えるが、彼らの活動はその投資価値をさらに上げるためのものにしか見えない。言わば、不動産価値を上げるためにその土地の宣伝を一生懸命する不動産屋に見えてくるのだ。悪く言えば、暗号資産(仮想通貨)界の地上げ屋みたいなものか。
スポーツマンである彼らは意外とスポーツマンシップに基づいたわりといいやつらであることはわかったが、ビジネス界のスポーツマンだけではやはり物足りない。
世界は現在、コロナウイルスによるパンデミックの真最中だ。民主主義、資本主義、共産主義、独裁主義など各種イデオロギーは全て行き詰っており国同士はおろか国内で混乱、対立、分断を生み出している。
これは新たなイデアの産みの苦しみとでもいうものかもしれない。それは、SDGsのような単なる環境主義なのか、地球政府とでもいうような連合体なのかわからないが、権力は持つが未来を理解できない大人たちが居座り続ける限り混迷はしばらく続くだろう。次世代の子どもたちにとっては辛い時代がしばらく続くかもしれない。いや、すでにそういうエリアは出現しておりそれが自分たちにまで及ぶのをただ傍観しているだけなのだろう。
あなたはどっちに賭けるのだ?と彼らは我々に問いかけているように思う。彼らはBTCに賭けた。が、しかし、その賭ける先の意味を彼らもわかっていないようだ。それを彼らに求めるのは筋違いなのだろう。そんなことはどうでもいい、と思っているに違いない、無給の伝道者じゃないのだから。(updated on 9 Nov, 2022)
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