「人工知能と経済の未来」<井上智洋/文春新書>読了。とても平易な言葉で書かれていて、難しい込み入った説明は省かれていた。そして、適度な時宜を得たユーモアと自虐があり若々しい文章で微笑ましかった。
人工知能と経済の未来
ベーシックインカムに関しては、これも興味のあるテーマだったので予想される障害をもう少し知りたかったが、紙数が尽きたようだ。それに、これはどちらかというと作者も言うようにAIと経済についての本であって、BI(ベーシックインカム)についての本ではない。ただ、ロジックからするとAIにはBIが有用だという展開より、BIがなぜ必要なのかという論拠にAIの発展が予想されるから、というふうにしたほうが演繹的で納得できる。ただ、編集者からするとAIを表題にしたほうが売りやすいというのがあるのだろうが、これでは少し未来論的な展開になってしまうので読者によっては、拡散した論調からの直線的な結論で強引に思えるかもしれない。これほど著者のBIへの思い入れが強いのなら、ぜひ逆からのアプローチをした新書あるいは論文を展開して欲しいものだ。それなら読んでみたい。
予想される障害
利害関係のある団体、飽くなき冨の追求を求める資本家、既得権を持った資本家、自己増殖を図る官僚組織などの抵抗は凄まじいし、著者の言うような漸次的なインカムの拡大は、これら資本家と結託した組織の前になし崩しにされたり、骨抜きにされたり、改悪されたりして潰される恐れが十分にあるので、施行は一気に進めないとマズイと思う。軍産複合体や金融、医療、保険などの産業界の圧力を軽視していては、どんな理論も最終的には実行されない。
今日的ないい経済テーマを扱っていて興味深く読めた。とはいえ、やはり、資本は最後までしぶとく残るんだよなあ、という有用性に着目してしまう資本主義に毒された自分がここにいるのだった。
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