アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV)<ダニエル・キイス/小尾美佐訳/早川書房>を初めて最後まで読んだ。書き出しが愚鈍な少年の文章から始まるのでどうにも読みづらく、愚鈍な少年はこんなにうまく書けないよ、とかいろいろ考えてしまいずっとそのままにしていたのだが、硬い本ばかり読んだ後は小説がいいので重い腰を上げてやっと読み切った。
「アルジャーノンに花束を」
素晴らしい本だった。栄養に役立たない甘ったるいケーキのような、大量に出版される凡百のSFジュブナイルとは違う。感心し反省し生きる栄養素を分けてもらったそんな気にさせてくれる、そして読ませてくれて本当にありがとうと感謝の気持ちさえ沸き起こる、読んで本当に良かったと思わせる本だ。こういうのが文学だと思う。
もっと早く読むべきだったが今読んでもほとんど古さを感じない。もちろん、アメリカのロボトミー手術を背景にしているところや、大脳生理学の現在の隆盛で主人公の状態も説明できる。それぐらい飛躍的にこの分野の発展が目覚しいし、主人公の天才的な解答も現在では画期的というわけでもないが、当時のことを考えるとこの時期これだけ書けているということは、十分SF的未来を予測していると言える。
作者は人間の持つ本来の温かさ、優しさは知識の増大に比して無くなっていくことを言っているのかもしれない、あるいはそういう社会になっていくアメリカへの批判と懸念も入っているかもしれない、われわれ自身への反省を込めているのかもしれない。
元からの知的障害者と愚鈍レベルの障害者に対する対応の仕方も昔と変わらない。われわれは前者には眼をそむけ見なかったことにし、後者には好奇と興味の眼を注ぐ。私も例に漏れず小学生時代、道をふらふら歩く愚鈍の少年をみんなでからかっては追っかけられたりしたものだ。昔は親たちも生きるのに必死で男の障害者はほっておかれたりしたからかもしれない。当時も罪悪感はあったが今から考えるとみんな酷いことをしたものだと思う。
みんな同じにんげんなのだ。ここは原始時代ではない、みんな社会を構成する一員なのだ。お互いに助け合うべきだし、そのための知識でなければいけないのだ。そう感じた。
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